2007年5月29日火曜日

岩渕潤子『美術館の誕生 美は誰のものか』

wowow:美術館の誕生 美は誰のものか
岩渕潤子 1995 『美術館の誕生 美は誰のものか』  東京:中公新書。
市民の力で形成されてきたUKの美術館
私人の寄贈行為から出発した公共博物館という概念の出発としてのUSの美術館(publicは、国立とか公立ではなく、公民の、という意味)
万博と同時代的現象としての国威発揚型美術館
等々、美術館学(美術館史)の概要を知るには便利な新書。速読で読めるし。

ただ、「正当な「展示」」(187)といった言葉を無規定に使い過ぎている。ほとんどの情報ソースを示していないし。
明言されないことにイデオロギーは現れるものなので、この本と著者は、かなり多くの既成概念と既存のオーソリティに寄りかかる権威主義的な視線を持っているのではないか、と思った。
最初、今の日本の美術(館)という制度にまつわる問題提起かと思ったけど、これ、違う。プチブルの世間話のネタ帳に見える。むしろ、そういうプチブルの世間話のネタ帳の事例として、その性格を考えるのに良い例かもしれない。

問題意識が薄いと思う。「外国での経験」がそんなに素敵なものだとは思わないし、中国や南米やアフリカや東欧、といった国々の「美術館」の話は皆無で、西洋社会の話しかない。つまり、ステロタイプなのだけど、これは「エリート志向を攻撃するプチブル」ではないか、と思う。エリート志向を攻撃する姿勢を見せて「民主的な」意匠をまとうことにより、自分が見ていないものをたずねることをやめるプチブルじゃねえか。
「美術館」という制度の概要、成立のあらまし等々は記述するが、「美術館という制度」は、肯定的なものとしてしか評価していない。ただ、その「美術館=良いもの=民主的なもの」という素敵な効果が、うまく社会に浸透していったか否か、という観点でのみ、日本と「素敵な外国」とを比較しているだけ。そもそも「美術館という制度」が必ずしも良いものかどうか、という問題意識には進んでくれない。(戦後)民主主義至上主義?


「日本の美術館」に関する記述は面白かった。ほとんど考えたことがなかったし。百貨店型美術館とか新聞社主宰の文化事業とか。

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