ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』
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松岡正剛の千夜千冊『未来のイヴ』ヴィリエ・ド・リラダン
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エジソンのフォノグラフ発明直後に書かれたらしい、「エジソン」博士が人造人間を作る、という小説。
「アンドレイード」(130)という言葉(アンドロイド、人造人間)の初出、押井守の『イノセンス』の元ネタの多くを提供したとかで有名らしい。
SFファンとして、それから「エジソン」への興味から、あと、「蓄音機」に投影された「ヴィジョン」の事例として知りたかったので読んだ。
「電気万能主義」みたいなヴィジョンの一例だったような気がする。もっと深み読みできるのかもしれん。
この「エジソン」は「電気学者」だけど、蓄音機の(再生と録音の)電化は1920年代だったはず。技術が実用化されたのはもっと前だったと思うけど、フォノグラフは電気の賜物ではないはず。なので、事例としては、技術的に正確でないのでなおさら興味深かった、とはいえる。電気と霊性がだいたい同じようなものとして言及されていたり、純金に記録された音こそが女性の妙なる声色を再現できる、というロジックがあったりとか。でも、この手の事例、他にもっと扱いやすいものないかな、と思った。「事例」として使うのは面倒くさそう。旧字旧仮名遣い(正字というらしい)だし読みにくいし、物語の「筋」が動くのは後半残り三分の一くらいになってからだし。
あと、「エジソン」によって1877年に「フォノグラフ」が発明されるまで「フォノグラフ」が発明されなかった理由は、まさにJonathan Sterne がThe Audible Pastで書いてることなので、最初のエジソンの独白は面白かった。
大まかな筋は以下のようなもの。
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ミス・アリシア・クラリーという絶世の美女(ルーブル美術館にあるサモトラケのニケのような美女)がいた。彼女は田舎で最初に結婚した男に捨てられて(飽きられて?)、都会に出て一花咲かせようと頑張ることにした。田舎から都会に出る時、彼女は、先祖から受け継いだ爵位とお城に守られて生きてきたエワルド伯爵なる人物と知り合った。彼はミス・アリシア・クラリーに惚れた。しかし彼は、ミス・アリシア・クラリーの外見は完璧だと思ったが、その内面が気に食わなかった(「世俗的」らしい)。そこで、理解しがたい話だが、エワルド伯爵はそのこと(惚れた女の外見は完璧なのに内面は気に食わないこと)に絶望して自殺しようと決意した。エワルド伯爵は、情婦でも恋人でも何でもいいけど、身近な人間に自殺された人間の気持ちをあまり深く考える必要を感じないタイプの人間だったのだ。そういう人っているよね。自分のことでいっぱいいっぱいの人って。
そこでエワルド伯爵は、自殺する前に最後に、かつて助けたことのある「エジソン」に会っておくことにした。「エジソン」はエワルド伯爵の様子を察知し、その問題を話させ、それならば、ミス・アリシア・クラリーの外見を持つ、しかしその「魂」は別の「人造人間」を作ろう、と申し出る。驚くべきことに、叙述の半分以上はこの「人造人間」のメカニズムの説明だった気がする。
「エジソン」がそんな申し出をしたのは「エジソン」が「人造人間」を作る準備があったからで、なぜそんなものを作る準備があったかといえば、「エジソン」もかつて、外見と内面に差異のある「女性」を作りたかったからだった(たぶん。よく分からん)。なぜそのようなものを作りたかったかと言えば、「エジソン」の昔の友達にアンダーソンというやつがいて、こいつがミス・エヴリン・ハバルという踊り子と浮気して、その浮気をきっかけに家庭崩壊、事業崩壊、自殺、ということになったからで、その原因は女だと考えたので、その「悲劇」を再現しないためにも「人造人間」を制作しようと思い立ったらしい(たぶん)。どうやらこの小説世界では、身近な人間に自殺された人間の気持ちをあまり深く考える必要を感じないタイプの人間は「正しい」らしい。
ともあれ、「エジソン」は「人造人間」を作った。仕事中のミス・アリシア・クラリーを呼び寄せ、さらに有名になれるかもしれないと期待させつつ、心の中では馬鹿にしながら幾つかの嘘も吹き込みつつ、(無意識的な状態で「ソワナ」という名前で活動することになったアンダーソン婦人の助けを借りて)様々な寸法を測ったり世迷いごとを話させたりして(都合の良いことに、「エジソン」の目的を果たすほどの期間は「エジソン」の館に滞在した後で、様子がおかしいことを察知したミス・アリシア・クラリーは逃げ出したてくれた)、「ハダリー」とやらいう霊体のようなものを「人造人間」に宿らせて、「人造人間」を作り上げた。エワルド伯爵は大変気に入って、ミス・アリシア・クラリーのことはすっかり忘れ、「ハダリー=人造人間」と共に、先祖から受け継いだお城の中で暮らそうと帰国の船に乗り込んだのであった…。
ちなみに、メインの主人公は「エジソン」と「エワルド伯爵」。
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ということで、どうやら「アンドロイド」とは、(男性名詞らしいけど)「男」の「女嫌い」が生み出した「理想の女」=「自分が気に入る受け答えをする女」として生み出されたものらしい。近代嫌いとか科学技術批判が云々とか言われる代物らしいけど、(自分やその他のものが)変化することを恐れる「男」が「変化しない理想」を打ちたてようとするかーいそーなお話な気がする。登場人物たちが何を恐れていたかというと、「女」が怖いらしい。気持ちわるー。「理想」は海に沈まねばならないけど、そんなに美しく沈むもんではないと思うし、その前に、「変化する理想」は全く提示されなかった。
「高踏的」であるためには何かの「上」に位置する必要があるけど、この訳書も、彫心鏤骨とかむつかしー言葉で褒められなければ「上」に位置できない「訳業」なんだろうと思う。そうまでして守りたいものは、誰にとってどれほど価値があるんだ?
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